制度設計

等級ごとの昇格基準の作り方|卒業方式と入学方式、必須条件と加点条件、審査の流れ

「何ができれば上がれるのか」に答えられない会社では、昇格は社長の一声か上司の推薦で決まり、候補にすら上がらなかった人の不満が最も深くなります。等級定義を土台に、卒業方式と入学方式の使い分け、成果・能力・経験の3要素、必須条件と加点条件の書き分け、審査の6段階、5等級の会社での例、社員への開示範囲を、20〜300人の会社で運用できる形に整理しました。

昇格基準とは何ですか?等級定義とどう違いますか?

昇格基準は「今の等級から次の等級に上がる条件」、等級定義は「各等級に期待する役割・能力の水準」です。昇格基準は等級定義を土台にして作り、等級定義なしに昇格基準だけを作ることはできません。

「昇格の基準が曖昧」という不満は、実は等級定義が曖昧なことに原因があることが多いです。次の等級に何が期待されているかが書かれていなければ、「何ができれば上がれるか」は書けません。昇格基準を作る前に、等級定義が「3行で、行動の言葉で」書けているかを確認します。等級定義の作り方は 等級制度の設計と等級定義の作り方 にまとめています。

昇格基準(昇格要件)
社員が現在の等級から上位の等級へ移るために満たすべき条件。評価結果・上位等級の役割の発揮・在籍期間・能力や資格・審査(面談・推薦・試験)などの組み合わせで定義する。昇進(役職に就くこと)とは区別する。
昇格と昇進の違い
昇格は等級(本人の水準)が上がること、昇進は役職(組織上のポスト)に就くこと。等級と役職を分けて管理していれば、ポストが無くても昇格でき、ポストの都合で等級が上がることも防げる。

この記事では、昇格の判断の中身を「何を見て、どう決めるか」として書き出す手順を、2つの判定方式、3つの要素、必須と加点の分け方、審査の流れ、開示の範囲の順に整理します。

昇格の判定には、どんな方式がありますか?

「今の等級の要件を満たしたら上げる」卒業方式と、「次の等級の要件を満たしていると認められたら上げる」入学方式の2つです。一般社員層は卒業方式寄り、リーダー・管理職への昇格は入学方式を組み合わせるのが実務的です。

2つの方式は、昇格を「これまでの実績への報い」と見るか、「これからの役割への任命」と見るかの違いです。どちらか一方にする必要はなく、等級の層によって使い分けます。

観点卒業方式入学方式
判定の基準現在の等級に期待する水準を安定して満たしている上位の等級に期待する役割を、すでに発揮し始めている
主な材料直近数期の評価結果、在籍期間評価結果に加え、上位等級の役割に関する行動事実、上司の推薦、面談・課題
本人への見え方「A を2期続ければ上がる」のように分かりやすい「次の等級の仕事ができるか」で見られるため、実績だけでは上がらない
向いている層一般社員層(G1→G2→G3 など)。実績を積むことが次の成長に直結するリーダー・管理職への昇格(G3→M1 など)。役割の性質が変わる境目
つまずきやすい点「優秀な担当者」がそのまま管理職になり、役割の変化に対応できない基準を厳しくしすぎると誰も上がれず、形だけになる。上位等級の役割を試す機会が必要

実務的な組み合わせは、「一般社員層は卒業方式を基本にしつつ、上位等級の役割を一部発揮していることを加点で見る」「リーダー・管理職への昇格は入学方式を基本にし、現等級の評価は必須条件として置く」です。入学方式を採るときは、上位等級の役割を試す機会(プロジェクトのリード、後輩の育成担当、会議の進行など)を昇格候補者に意図的に与えないと、「発揮し始めている」ことを確認できません。

昇格基準には、何を入れますか?3つの要素は?

①成果・評価(直近の評価結果)、②能力・行動(上位等級に期待する行動の発揮、必要なスキル)、③経験・審査(在籍期間、面談・推薦・課題)の3要素で構成します。評価結果だけで決めないことが、昇格後のミスマッチを防ぎます。

昇格基準が評価結果だけだと、「評価が高い=次の等級の仕事ができる」という前提になります。担当者として優秀な人が、リーダーとして必要な行動を発揮するかは別の話です。3つの要素を等級の層ごとに組み合わせます。

要素見るもの例材料の出どころ
①成果・評価現在の等級で安定して成果を出しているか直近2期の最終結果が B 以上、うち1期は A 以上評価サイクルの最終結果
②能力・行動上位等級に期待する役割の行動を、すでに発揮し始めているか。必要なスキル「チームの目標達成をリードする」に対応する行動事実が2件以上。必要なスキルの習得上司評価のコメント、行動ブロックの評価、360度フィードバック(参考)
③経験・審査現等級での在籍期間、昇格面談・上司推薦・課題の結果現等級に1年以上在籍。上司推薦と人事面談。管理職は経営者面談社員情報、推薦文、面談記録

②能力・行動の「上位等級に期待する役割」は、等級定義の文をそのまま使います。たとえば M1 の定義が「自分のチームの目標達成をリードする」なら、G3 から M1 への昇格基準の②は「チームの目標達成をリードした行動事実が確認できること」になります。等級定義が行動の言葉で書かれていれば、昇格基準の②は自動的に決まります。

「必須条件」と「加点条件」は、どう分けますか?

必須条件は「満たさなければ候補にならない」門番、加点条件は「候補の中で総合判断する」材料です。必須は3〜4項目に絞り、加点は点数化して合計で見ます。両方を本人に開示します。

昇格基準を1つのリストにすると、「全部満たさないと上がれないのか」「一部でよいのか」が分からず、運用者も本人も迷います。必須と加点に分けると、判断の手順がはっきりします。

必須条件(門番)加点条件(総合判断)
性質1つでも欠けたら今期の候補にならない候補者を比べるときの材料。点数化して合計する
例(G2→G3)現等級に1年以上在籍/直近2期の最終結果が B 以上/直近1期に C 以下がない直近の最終結果が A(2点)・S(3点)/後輩の育成担当を担った(1点)/上位等級の役割の行動事実(1件1点、上限3点)/上司推薦(1点)
例(G3→M1)直近2期の最終結果が A 以上を1期含む/上司推薦あり/人事面談を受けるチーム目標のリード経験(2点)/プロジェクトの進行役(1点)/360度フィードバックの育成・協働の項目(参考、点数化しない)/経営者面談の所見
本人への開示すべて開示する。満たしていない項目を本人が確認できる項目と配点は開示する。他者との比較や合計点の順位は開示しない
変えやすさ変えにくい。変えるときは次期以降に適用会社の重点に応じて毎年見直せる

加点条件に360度フィードバックを入れるときは、点数化せず「参考」にとどめます。処遇に直結すると回答が忖度や報復を含みやすくなります。必須条件の「直近2期の最終結果が B 以上」という書き方は、「B=期待どおり(等級に期待する役割を果たした)」という最終結果の呼び方の定義が前提です。

昇格審査は、どんな流れで進めますか?

①候補者の抽出(必須条件で機械的に)→②上司の推薦文と行動事実の提出→③人事による加点の整理→④審査会(経営者・人事・上司)→⑤結果と理由の本人への説明→⑥非昇格者への次期の指針、の6段階です。評価サイクルの最終結果の確定後、昇給・昇格の反映前に行います。

審査の流れが決まっていないと、「誰かが思い出した人だけが候補になる」状態になり、候補にすら上がらなかった人の不満が最も深くなります。①を機械的に行うことが、この不満を防ぎます。

  1. 候補者の抽出:評価サイクルの最終結果が確定したら、人事が必須条件(在籍期間・直近の最終結果)に当てはまる人を全員リストにする。上司の記憶に頼らない
  2. 推薦文と行動事実:候補者の上司が、②能力・行動に対応する行動事実(上位等級の役割をどう発揮したか)を2〜3件と、推薦の可否を書く。推薦しない場合も理由を書く
  3. 加点の整理:人事が加点条件を候補者ごとに整理し、一覧にする。管理職への昇格は面談を設定する
  4. 審査会:経営者・人事・候補者の上司で、一覧と推薦文を見ながら決定する。決定と理由を候補者ごとに1〜2行で記録する。定員(ポスト)の都合で見送る場合は、その理由を「基準未達」と分けて記録する
  5. 本人への説明:昇格者には新しい等級に期待する役割を、非昇格者には満たしていた条件と満たしていなかった条件を、上司が面談で伝える
  6. 次期の指針:非昇格者には「次に何が確認できれば候補になるか」を具体的に合意し、上位等級の役割を試す機会を計画する

ChordOne Performance では、等級・役職・職種を定義として登録し、社員情報と評価シートで同じ内容を使えます。評価サイクルの最終結果と上司評価のコメントが対象者ごとに残るため、①の候補者抽出で「直近の最終結果」を評価シートから探す作業と、②の行動事実を上司評価のコメントから引く作業が同じ場所で行えます。昇格審査そのものを自動で判定する仕組みではなく、材料を1か所に揃える位置づけです。

等級ごとの昇格基準は、どんな形になりますか?例を見せてください

等級の層ごとに、卒業方式か入学方式か、必須条件、加点条件、審査の形を1行ずつ書いた表にします。5等級の会社なら4つの「境目」について書けば完成です。

以下は、G1〜G3(一般社員層)と M1〜M2(管理職層)の5等級の会社での昇格基準の例です。数値や条件は会社の状況に合わせて変えてください。

境目方式必須条件加点条件審査
G1→G2卒業現等級に1年以上在籍/直近2期の最終結果が B 以上直近の最終結果 A 以上/担当領域を自走して完了した行動事実上司推薦+人事確認
G2→G3卒業+加点で入学要素現等級に1年以上在籍/直近2期の最終結果が B 以上/直近1期に C 以下がない直近の最終結果 A・S/後輩の育成担当/上位等級の役割の行動事実(上限3点)/上司推薦上司推薦+人事面談
G3→M1入学直近2期のうち1期は A 以上/上司推薦あり/人事面談チーム目標のリード経験/プロジェクト進行役/360度の育成・協働項目(参考)審査会(経営者・人事・上司)+経営者面談
M1→M2入学M1 として2期以上/直近2期の最終結果が A 以上を含む/経営者推薦複数チームの成果と育成の行動事実/部門横断の課題解決/後任の育成審査会+経営者面談+ポストの有無

この表の「必須条件」の列は、等級定義の「期待する役割」の文と対応しています。たとえば G2 の定義が「担当領域を自走して完了する」なら、G1→G2 の加点条件にその行動事実が入り、G2→G3 の必須条件「直近2期 B 以上」は「G2 の役割を2期続けて果たした」ことを意味します。等級定義と昇格基準を別々の文書で作ると、この対応が崩れます。

昇格基準は、社員にどこまで開示しますか?

等級定義、各境目の方式、必須条件、加点条件の項目と配点、審査の流れと時期は全員に開示します。他者の加点合計や審査会の議論の中身は開示しません。非昇格者には「満たしていた条件と満たしていなかった条件」を個別に伝えます。

「実績を出しているのになぜ上がれないのか」という不満は、上位等級に何が求められているかが事前に見えていないときに生まれます。昇格基準の開示は、不満対策であると同時に、社員が「次に何を身につけるか」を自分で決めるための地図です。開示の範囲を整理します。

  • 全員に開示:等級定義(各等級に期待する役割)、境目ごとの方式(卒業/入学)、必須条件、加点条件の項目と配点、審査の流れ・時期、評価と昇格・昇給の関係
  • 本人に個別に開示:自分が必須条件のどれを満たし、どれを満たしていないか。非昇格の場合は、次に何が確認できれば候補になるか
  • 開示しない:他者の加点合計や順位、審査会の議論の中身、推薦文の全文(要点は上司が面談で伝える)

開示の媒体は、制度文書と、期初の説明会です。等級定義と昇格基準を1枚の表にして、社員が自分の等級の行と次の等級の行を見比べられる形が最も伝わります。ChordOne Performance では等級・役職・職種の定義と、等級に紐づく役職の関係を一覧で確認できるため、「自分の等級の定義」を社員情報から参照できる状態になります。昇格基準の文書そのものは制度文書として別に管理し、等級定義の側と文言をそろえます。開示と納得感の関係は 人事評価への不満の原因と対策 を参照してください。

昇格基準について、よくある疑問

降格の基準も作るべきですか?

作りますが、運用の前提は「降格が発生しないように期中に支援する」ことです。基準は「直近2期の最終結果が C 以下、かつ支援計画を実施しても改善が確認できない」のように、評価結果と支援の実施をセットにします。降格は本人にも会社にも損失が大きいので、昇格基準ほど頻繫に適用されるものではありません。

専門職(エンジニアなど)は、管理職にならないと上がれませんか?

等級と役職を分けていれば、管理職にならずに等級を上げる「専門職の等級系列」を作れます。M1 と並ぶ E3(専門職)のような等級を置き、期待する役割を「技術的な判断でチームの成果を高める」のように定義します。等級定義の側の設計は 等級制度の種類 を参照してください。

まとめ:等級定義を土台に、方式を層で分け、必須と加点を書き分け、流れと基準を開示する

昇格基準は等級定義の上に作ります。判定方式は一般社員層は卒業方式、リーダー・管理職への昇格は入学方式を基本に組み合わせ、①成果・評価、②能力・行動、③経験・審査の3要素を、必須条件(門番)と加点条件(総合判断)に分けて書きます。審査は必須条件で候補を機械的に抽出し、推薦文と行動事実、加点の整理、審査会、本人への説明、非昇格者への次期の指針の6段階で進めます。等級定義・方式・必須・加点・流れは全員に開示し、本人には満たしていた条件と満たしていなかった条件を個別に伝えます。

ChordOne Performance では、等級・役職・職種の定義を社員情報と評価シートで共用し、評価サイクルの最終結果と上司評価のコメントが対象者ごとに残ります。昇格審査の材料を1か所に揃える運用を、20名まで無料で始められます。等級・役職・職種の定義の機能 と 導入の流れ をご覧ください。